[解説]
繊細な手仕事が施された、フォークロア風のテイストが魅力のブランドです。イタリア手工芸の伝統を受け継ぐ職人の技が凄い。手作業の色が濃い豪華な刺繍や優しい色使いが特長です。高田賢三氏が退いた後の「KENZO(ケンゾー)」ブランドのクリエイティブディレクターに2003年9月に就任して、話題を呼びました。
今でも地中海に浮かぶサルディニア島(イタリア)に住んでいます。サルディニア島と言っても、多くの人にはピンと来ないかもしれません。サルディニア島は地中海第2の大きさの島で、大陸から孤立した島ならではの個性的な文化を育んだことで知られています。その風土がマラス氏の牧歌的で和みを感じさせるラインの下地となりました。
古くから鰯(イワシ)漁が盛んだったことから、イワシ(英語で「sardine」)にちなんで「サルディニア」と名づけられたというほど、今なお豊かな自然が残る土地柄。マラス氏の作品には故郷の景色や生活からインスパイアされた柔らかい色彩、草木を思わせる風合いが反映されています。
フェミニンでいながら、ふわりとしたボディライン。あまりボディコンシャスではないので、安心して着られるのが嬉しい。トップスにダーツがないカッティングは、着る人の動きに従って生まれる布のダイナミズムを楽しませてくれます。
何種類もの布地を使ったテキスタイルのシンフォニーにははっとさせられます。生地店の息子として生まれた生い立ちがマラス氏の作風を支えています。細かいハンドステッチやアップリケなど、ハンドクラフトの巧みさは現代のデザイナーで指折りの一人でしょう。
1996年、「Antonio Marras」の名でオートクチュールのコレクションをローマで発表したのが、マラス氏の正式デビューとされています。2000年、イタリアの高級既製服「トレンド・レ・コパン(TREND LES COPAINS)のデザイナーも兼ねました(現在は離れている)。2003年9月に「ケンゾー」を任された時点では、3ブランドを手がける人気デザイナーとなりました。
詩情あふれる世界観。物語性を凝縮したテクスチャー。ミラノで今、最も注目されている作り手の一人と言って間違いないでしょう。ビジネス的な感覚も重要視されるミラノのファッションシーンにあって、朴訥(ぼくとつ)な人柄を感じさせるマラス氏はそのマイスター(職人)的な仕事ぶりで別格の扱いを受けています。
綺麗なプリントのワンピース、布やアクセサリーが幾重にも重なるドレス、コットンレースのブラウスなどに、マラスらしさが強く表れています。「布で遊ぶ」とでも言うべき挑戦には、布に囲まれて育ったマラスならではの、テキスタイルとの親和性が感じられます。
温もりを感じさせるハンドクラフトが魅力のマラス氏ですが、2004―2005年秋冬ミラノでは無声映画時代の凛(りん)とした大女優をモチーフに大胆なラインを提案しました。一方、2004―2005年秋冬パリでは「ケンゾー」ブランドで「遊牧民(ノマド)」をテーマに、民族調を取り入れた作品を並べ、エキゾチックなデザインで一世を風靡した「ケンゾー」の第2章を開きました。さらに、日本を代表する現代アーティストで、水玉と網目のモチーフで有名な草間彌生氏からインスピレーションを得たカラフルな作品を発表し、デザイナーとしての視野の広さを証明してもいます。
手仕事の雰囲気が一目で伝わるマラス氏の服は、着ている人の外見にも温かみを添えてくれます。一枚羽織るだけで、キャラクターが変わって見えるような効果があります。親しい人たちとのパーティーなどに向いていそうです。
●ブランドデータ
[本国]
イタリア
[歴史] アントニオ・マラス氏は1961年、イタリアのサルディニア島アルゲーロに生まれた。生地商の家に生まれた影響もあり、早くからファッションビジネスを志す。
83年に衣料店をオープン。妻のパトリツィア氏に勧められ、「Piano piano dolce Carlotta」と銘打ったプレタポルテのコレクションを87年から手がける。その後、10年間ほど、数社のアドバイザーを務める。96年、「Antonio Marras」の名でオートクチュールのコレクションをローマで発表。自らの名を冠したブティック「アントニオ・マラス」をオープンした。
99年、レディースのプレタポルテをスタート。2000年、「レ・コパン」ブランドのうち、比較的先鋭なラインの「トレンド・レ・コパン」のデザインを任された(現在は離れている)。2003年9月、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン傘下の「ケンゾー」ブランドのクリエイティブディレクターに就任した。
高田賢三氏は93年のLVMH傘下入り後もデザイナーに専念していたが、2000年春夏コレクションを最後に一線から退いた。一時は引退すると思われた高田氏だったが、2年半の休養を経て復帰。LVMHの最大のライバル、フランスの流通最大手、ピノー・プランタン・グループの下で新たなブランドを立ち上げた。「ユニクロ」のファーストリテイリングの依頼を受けて、アテネ夏季五輪の日本代表公式ウエアをデザインした。
[現在のデザイナー] アントニオ・マラス氏
[キーワード] 温もり、ハンドメード、ロマンチック
[魅力、特徴] 表情のあるテキスタイルが大人の落ち着きを醸し出す。手作りの柔らかい風合いが気持ちまで温かくしてくれそう。
|